近年、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)などの仮想通貨が普及しつつあります。米国では、アメリカ人の少なくとも16%が既に仮想通貨などの暗号資産を保有しているといわれています。また、台湾でもさまざまな仮想通貨取引所がオンプレミスホスティングを利用し始めており、人気を集めています。
仮想通貨は24時間年中無休で取引することができ、価格が大きく変動します。従来の通貨や証券と比較して投資収益率が高くなる可能性があることから、世界的な投資ブームの引き金となっています。一方で、取引上のリスクも少なからず存在し、不正行為やマネーロンダリングの温床となる可能性もあります。このため、さまざまな国が仮想通貨取引に関する活動の監督と規制を開始しています。
たとえば、台湾の金融監督管理委員会(FSC)は、マネーロンダリングを防止するため、2021年7月に仮想通貨プラットフォームでのマネーロンダリング防止とテロ資金調達防止のための規制を施行しました。この規制によって、仮想通貨を含むすべての取引への本人認証を実装すること、取引に関する記録を保管すること、疑わしい取引を検出した際に申告を行うことなどが仮想通貨取引所の運営者に求められるようになりました。
この記事では、仮想通貨など暗号資産取引におけるeKYCの概要と、仮想通貨取引所で顔認証による本人認証を使用することで、法規制を遵守しながらユーザー体験を向上させる方法についてご案内します。
暗号資産とは、交換媒体として機能するよう設計されたデジタル通貨および仮想通貨のことです。一般的にはブロックチェーン技術を使用しており、個々の仮想通貨は、分散型台帳技術(DLT)によって、すべてのブロックチェーンユーザーのコンピューターに分散され、同期して保存されます。この仕組みによって、データの改ざんに強いという特徴があります。
私たちによりなじみ深い法定通貨(USドル、ユーロ、円など)とは異なり、仮想通貨は政府や中央銀行が発行する通貨ではありません。仮想通貨は、コンピューターで生成された暗号を介してブロックチェーンに情報を格納する分散型通貨です。法定通貨は、各国政府からの要求に応じて発行されます。そして、通貨市場と各国の法律および規制によって、その価値と為替レートが決まります。
一方で、仮想通貨の発行量は限られています。例としてビットコインの場合、2009年の使用開始以来1700万ビットコインが「マイニング」されていますが、新しいビットコインがマイニングされるのに伴い、2140年に総発行量が上限の2100万に達するよう、発行速度が低下し続けるようになっています。仮想通貨の価値は、需要と供給により決まります。
対米ドルでみると、1ビットコインの価値は2021年に劇的な伸びを見せており、年初の2万ドルから、2021年11月初旬には6万8000ドルを超えるまでになりました。この極端な価格変動に触発され、多くのユーザーが仮想通貨による暗号資産市場への投資を行うようになりました。
例として台湾では、仮想通貨の取引は主に取引所サービス、取引プラットフォーム、および店頭取引(OTC)の3つの方法で行われています。
KYCは金融分野の専門用語である「Know Your Customer」の略語で、一般的に「本人認証」を意味します。これは、個人情報、証明書、およびその他の資料を使用して、本人確認を行う認証方法です。
KYCは口座の開設や取引など、さまざまな金融サービスですでに広く使用されています。キャッシュフローを管理し、またマネーロンダリング、詐欺、その他の金融犯罪を防止するために、国際金融分野においてKYCは不可欠となっています。
eKYCは「Electronic Know Your Customer」の略語で、電子的な本人認証を意味します。複雑な手続きや事務処理を必要とする従来のKYCプロセスと比較して、すべての手続きをオンラインで電子的に完了することができます。eKYCは、インターネット経由でのモバイルバンキング、モバイル決済サービス、オンラインでの保険証券の取得や銀行口座のリモート開設などで使用されており、いわゆるフィンテックと呼ばれる革新を支えるキーテクノロジーとなっています。
より具体的な例として、銀行口座をリモートで開設する際のeKYCプロセスをみていきましょう。申請者は、AI画像認証を使用して身分証明書の正当性を証明し、自分の顔と身分証明書の顔写真を照合することができます。また、AI顔認証によってサービスにログインし、スムーズに金融サービスを使用することもできます。
顔認証によるeKYC本人認証と不正防止の強化については、こちらの記事もご覧ください。
台湾の金融監督管理委員会(FSC)は、2021年7月に仮想通貨プラットフォームでのマネーロンダリング防止とテロ資金調達防止のための規制を実施しました。これにより暗号資産のオペレーターは、新規ビジネスの開始(アカウントの開設・登録)、30,000台湾ドル以上の取引、マネーロンダリングまたはテロに繋がる疑いのある取引、および顧客情報の信憑性または適合性に関して嫌疑が生じる場合などに、顧客の本人認証を行う必要があります。本人認証の際には、顧客の名前、パスポートなどの公的な身分証明書の番号、生年月日、国籍、住所などの情報が必要となります。仮想通貨プラットフォームでの取引には、既に本人認証が必須となっています。
台湾の主要な仮想通貨プラットフォームと取引所は、これらの規制に対応するためのシステムを導入しています。たとえばBitoProでは、ユーザーは2021年6月30日までにレベルB認証を完了する必要があり、以前に認証を完了したレベルAおよびBのユーザーは、取引を続行する前に情報を更新する必要があります。またMaicoin GroupのMaicoinプラットフォームとMAX取引サービスでは、レベル1のユーザーは本人認証を完了する必要があります。またレベル2のユーザーは、身分証明書の画像をアップロードする必要があります。
ケーススタディとしてBitoEXでの事例をみていきましょう。2014年に設立されたBitoEXは、仮想通貨取引プラットフォームを提供する台湾企業で、世界の業界信頼度ランキングでトップ50にランクインする仮想通貨取引プラットフォームの1つです。ユーザーは、プラットフォーム上で仮想通貨など暗号資産を購入、保存、取引することができます。BitoEXは、BitoEX仮想通貨プラットフォームと、BitoPro仮想通貨取引サービスを提供しています。
FSCの規制に準拠するために、BitoEXは2021年6月に本人認証システムを導入しました。ユーザーは身分証明書の表面と裏面の画像をアップロードし、さらに身分証明書を持った状態で自撮りを行い、レベルBの認証を完了する必要があります。
従来の本人確認プロセスは完了までに平均10営業日を要するうえ、次の3つの大きな課題を抱えていました。
BitoEXは、本人認証の実装後に発生した問題を解決するために、AI顔認証の開発者であるサイバーリンクと協力することになりました。サイバーリンクは、FaceMe® eKYC & Fintechソリューションを導入することによって、AI技術を使用してユーザーの申請プロセスを加速するとともに、審査担当者による本人認証中のミスや審査期間の長期化といったリスクを回避することに成功しました。このソリューションには、次の機能が含まれています。
FaceMe®のAI顔認証技術により、BitoEXは認証プロセス全体を完全に自動化することに成功し、審査担当者が行うのは最終確認のみとなりました。申請にあたって他に補足情報を必要としない場合、FaceMe®によって認証プロセスに要する期間を10日から最短1日にまで短縮することができます。さらに、ユーザーは顔認証を使用して、パスワードを使用することなくサービスにログインしたり取引を行ったりすることができるため、取引サービス全体の効率も大きく改善することができます。
サイバーリンクは、AI、顔認証、およびビデオ会議サービスに使用されている技術を統合し、保険・金融業界向けに設計されたワンストップeKYCソリューションであるFaceMe® eKYC & Fintechを開発しました。このソリューションでは、顔認証、生体検出、身分証明書の認証、個人の顔と身分証明書の顔写真の比較、文書情報の検証など、保険や口座の開設をリモートで行うために必要なeKYC SDKが提供されています。
FaceMe® eKYC & Fintechは、保険・金融業界においてプライベート、またはGCPのパブリッククラウドサービスを使用したリモートビデオ会議サービスの構築を支援するためのビデオ会議SDKも提供しています。iOSおよびAndroid用のSDKも用意されているため、モバイルアプリサービスに統合することも可能です。保険申請プロセスを記録することで、FSC規制に準拠するための監査やコンプライアンス検証に役立てることができます。
顔認証によるeKYC本人認証と不正防止の強化については、こちらの記事もご覧ください。また、FaceMe® eKYC & FintechのWebページでは、保険・金融業界用のeKYCソリューションについてより詳しくご紹介しています。
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