現在、保険・金融業界において、ネットワークセキュリティ上の脅威がより大きくなっており、AIを活用した高度な顔認証テクノロジーによる認証ソリューションの必要性が高まっています。
常に潜む脅威に対抗するために、IDカード等による本人認証や、不正の防止に対しての強化が必要とされました。保険会社や銀行などの金融機関は、最新の本人認証(KYC)およびマネーロンダリング防止(AML)の基準を達成するため、AIテクノロジーの導入を進めています。AIテクノロジーを使用することで、なりすましによる詐欺などの金融犯罪の不正防止だけでなく、顧客の識別および本人認証のプロセスをより強化することができます。
これらの高度な不正防止の要件は、昨今の感染症状況で発生した移動や物流の制限によって、より大きな困難に直面しています。保険・金融業界は、不正防止プロセスを迅速にデジタル化し、これらの対策をオンラインや店頭での取引に統合する必要があります。
生体認証技術を使用したeKYC(electronic Know Your Customer)による本人認証により、不正を防止しながら認証プロセスのデジタル化を促進することができます。口座開設、クレジット、保険契約などの申請や、日常の取引、カスタマーサポートなどの様々な場面においてのリモートサービス化への需要が増加しています。保険・金融業界は、eKYCなどの認証技術を取り入れることによって、安全な無人・リモート化を実現しすることが可能で、コロナ渦における感染症対策への大きなステップとなります。
本人認証とは、銀行などの金融機関で不正を防止するための仕組みで、現在ではパスワードや2要素認証などの保護手段が用いられています。米国の金融業規制機構が策定した本人認証ルールによると、金融機関は顧客に関する重要な記録を保持し、取引に関連する本人認証、適合性、リスクなどを検証することが求められています。主要な金融機関では、手動による本人認証の作業と顧客の財務状況やリスクの調査に、年間最大500億ドルを費やしています。
本人認証は、金融機関とその顧客を保護するために必要不可欠なものです。また、資金の流れを追跡するためにも役立ちます。金融機関がより大きなセキュリティ面でのリスクに直面するにつれ、金融機関や顧客に大きなメリットをもたらすeKYCへの需要が高まっています。
eKYCを使用することで、従来の本人認証プロセスをより安全に、迅速に、そしてリモートで行うことが可能となります。本人認証は、デジタル認証と顔認証などの生体認証技術を使用して行われます。eKYCの利点は次の通りです。
eKYCによる本人認証が従来と同じレベルの安全性を満たすことを保証するために、金融機関は高レベルの安全性と信頼性を備えた電子認証プロセスを導入する必要があります。
それでは、eKYCで実現される顧客と金融機関を保護するための主要な生体認証技術をご紹介します。
金融機関は、資産保護のために高度なテクノロジーを導入しています。eKYCで使用される主要な生体認証技術は、下記の3つです。
これら3つの認証技術にはそれぞれ特徴があります。各技術の特徴についてみていきましょう。
虹彩認証は高速かつ高精度ですが、対応するカメラが限られており、コストも高価です。顔認証は市場で広く普及している比較的安価なカメラを使用できるという利点があります。また指紋認証では、物理的な接触が必要となるため、これに伴う衛生上の問題や、指の汚れや皮脂が原因でセンサーが指紋を識別できないといった問題が発生する可能性があります。以上のような特徴から、顔認証は物理的な接触を回避できるため衛生的であり、かつ手頃なコストで導入できるため、柔軟性に優れた認証技術として評価されています。
上記の比較を念頭に置いて、保険・金融業界の取引プロセスを保護するために顔認証がどのように活用されているかを詳しくご案内します。
顔認証は、顔の特徴点を抽出し、事前に登録された個人情報やスキャンされた顔写真付きの身分証明書と照合する生体認証技術です。この技術は認証のために顔を検出し、その特徴点を抽出したうえで、データベース内の情報と照合しています。近年のニューラルネットワークと推論モデルに基づくAIテクノロジーの進歩によって、ソフトウェアでさらに正確な顔認証モデルを作成できるようになりました。
FaceMe®のような最先端の顔認証技術を、カメラを備えた様々なエッジデバイスにSDKを使用して実装することができます。デバイス上のカメラでライブ映像から顔が検出されると、顔の特徴点が抽出されテンプレートに変換されます。テンプレートは、顔の特徴点情報を含む、暗号化された小容量のファイルです。このテンプレートがデータベース上にあらかじめ登録されたテンプレート、または対象者の身分証明書上の写真から作成されたテンプレートと比較照合されます。認証プロセスが正常に完了することで、ソフトウェア上での金融取引を開始することができます。
認識率
使いやすさ
速度
衛生
特別なハードウェア
ハードウェアコスト
リモート登録
ブラックリスト・侵入者防止
◎
◎
このような高度なプロセスが行われるeKYCでの顔認証ですが、保険・金融業界においてeKYCが実装されるプラットフォームは多岐にわたります。このため、以下のような多くのソフトウェアおよびハードウェアに実装可能な顔認証ソリューションが必要となります。
このような幅広いオプションが用意されていることにより、顔認証技術は保険・金融業界の様々な場面で、セキュリティ対策の強化に貢献することができます。顔認証を使用したeKYCの例をいくつかご紹介します。
顔認証は、店頭およびオンラインで行われる様々な手続きにおいて本人認証を強化するための鍵となっています。
顧客は、金融機関にお金や個人情報を預けるにあたって、それらの安全を保つため最高レベルのセキュリティを期待しています。金融機関は、顧客の登録プロセスにeKYCを組み込むことによって、顧客の信頼に応えることができます。これは、保険・金融業界におけるもっとも幅広い用途で、銀行口座の開設やローン、クレジットの申し込みなどの手続きで採用される可能性があります。
このソリューションによって、顧客の財務状況などの口座開設に必要な情報をすばやく照合し、手続きをスピードアップすることができます。
例えば銀行口座を開設する際のプロセスにおいて、顔認証は以下のように使用されます。
上記は銀行でのプロセスですが、同様のeKYCソリューションを使用して、証券会社や保険会社での手続きを強化することもできます。
金融サービスを使用する多くの顧客は、既にモバイル端末を使用したリモートサービスへ移行しつつあります。調査では、アメリカ人の80%が、銀行店舗へ行かなくてもお金を管理できるようになったと回答しており、非接触のデジタルソリューションの浸透が始まっています。しかし、サーバーへのアクセスの分散化により、同時にリスクも高まっています。生体認証によって、モバイルでの手続きおける脆弱性を排除することによって、個人情報が正しく保護され、金融機関はモバイルソリューションを幅広く展開できるようになります。
モバイル端末に実装されたエッジベースの顔認証により、認証に必要な情報はローカルデバイスに保持されます。これによって、認証精度が向上するとともに、クラウド処理の場合に発生する大きなファイルの送受信に伴う遅延を無くすことができます。金融機関のサーバーに保管されているデータベース上の暗号化されたテンプレートとの照合のために、小容量の暗号化されたテンプレートのみが送信されるため、より安全に、数ミリ秒以内という短時間で認証を完了することができます。
顧客はIDとパスワードを使用して銀行のアプリにログインし、身分証明書をスキャンして、なりすまし防止のために自撮り写真を撮影します。これらの情報を生体認証と組み合わせて照合することで、リモートでの本人認証が完了します。
モバイルeKYCソリューションにより、顧客は今までよりも多くの銀行取引をリモートで行うことができるようになります。クレジットカードやローンの申請、証券口座の開設などの追加サービスを、リモートから安全に申し込むことができます。また、店頭での手続きでもタブレットなどのモバイル端末を使用することで、生体認証によって安全性を向上させることができます。
多くの顧客が、個人のPCを使用して銀行取引や証券取引を行い、また様々な金融商品やサービスを申し込んでいます。顔認証技術によって、これらの取引をより安全にすることができます。
例えば、顧客が自分のPCを使用して証券会社の口座を開設するようなケースでは、PCに搭載されたカメラで顔の特徴点を抽出し、さらに身分証明書を撮影することで、本人確認を行うことができます。システム上においては、暗号化されたテンプレートを使用して、クラウド上でデータを素早く処理することができます。生体認証によって顧客の情報を口座と紐づけることで、取引が店舗外で行われる場合でも、店舗と同等の安全性を保証することができます。
モバイルバンキングが広く普及した状況においても、ATMは依然として必要不可欠です。顔認証技術を使用する事により、次世代のカードレスATM取引への可能性が拡がっています。ATMに搭載されたカメラで顧客の顔が識別されると、顔認証システムはあらかじめ銀行のデータベースに登録されている情報との照合を行います。次に、顧客は二段階認証のため暗証番号を入力します。これにより本人認証が行われ、ATMでの取引が可能となります。顔認証によって、顧客は財布からキャッシュカードを取り出すことなく、取引を行うことができます。
銀行やその他の金融サービスでリモート化が進むにつれて、カスタマーサポートの重要性も高まっています。サポートでの会話では個人情報のやり取りが多く発生するため、顧客の本人確認が必要不可欠です。サポートサービスを開始する際、担当者は通常セキュリティに関する質問を顧客に尋ねますが、これは多くの場合容易に予測が可能であり、簡単に突破できてしまいます。顔認証技術は、カスタマーサポートサービスの分野において個人情報を保護するためにも役立ちます。
まず、顧客はビデオ通話によって金融機関のカスタマーサポートに連絡します。顧客から撮影の同意を得たうえで、カメラの映像から顔の特徴点を抽出し、あらかじめデータベースに登録された生体認証プロファイルと照合します。顔認証による本人認証が行われることで、担当者は相手が顧客本人であることを確認し、サポートサービスを提供することができます。顔認証はeKYCによる本人認証を行うための鍵であり、安全なリモートカスタマーサポートの提供を可能としています。
しかしながら、保険・金融業界では対面でのやり取りが必要な取引も依然として存在します。店舗窓口での取引においては、顔認証によるeKYCテクノロジーにより、タブレット端末やPCなどを使用して瞬時に本人確認を行い、対面での取引の安全性をさらに高めることができます。
金融プロセスのデジタル化は今後ますます進行していくと予想されていますが、物理的な窓口である金融機関の店舗は、脅威に対して依然として脆弱です。金融機関では、犯罪のおそれのある人物を特定するために、ブラックリストが用意されていることがあります。顔認証によって、警備員やセキュリティ担当者が脅威に対応して、より迅速に行動できるようになる可能性があります。警備員が見つける前に、ATMや店舗に備え付けられたカメラがブラックリストに登録された人物を識別し、即座に彼らの身元を確認することができます。その後、警備員にアラートが通知され、必要に応じた行動をとることができるようになります。
eKYCを使用した、複数のAI/IoTデバイスで構成された統合セキュリティシステムによって、これをさらに進化させることができます。店舗のローカルワークステーションは顔と身分証明書情報の取得のため、窓口のPOS端末と銀行員のタブレット端末・PCと接続されます。これらの情報はセキュリティのためのIPカメラにもリンクされます。モバイルバンキングやATM取引で得られる情報も取り込むことで、店舗のセキュリティをより強化することもできます。eKYCは、機械学習を使用したIoTデバイスのWeb接続に基づいて構築されており、店頭で顧客と対面するすべての場面において安全の確保に貢献します。
顔認証は多くの場面で使用され、いずれは保険・金融業界に不可欠な技術となるでしょう。
個人情報の流出や詐欺などが増加する中、金融機関はより高度な本人確認が求められています。eKYCは業界における重要なトピックです。米国では、連邦および州による保険・金融業界への規制の動きが高まりつつあります。顔認証によって、金融機関は資産と情報をより効果的に保護することができるようになります。
今までは一貫した基準がなかったため、顔認証の導入は順調に進んでいるとは言えませんでしたが、状況は変化しつつあります。米国では、スマートフォンのロック解除、ホテル宿泊客の保護、法医学的調査の支援、空港でのチェックインプロセスの合理化、さらには視覚障碍者が周囲の状況をより簡単に理解できるようにするために、顔認証技術が使用されています。ヨーロッパやアジアの多くの国では、eKYCなどの用途で顔認証が急速に使用され始めています。
顔認証を実装するためのコストは急速に低下しています。より安価なタブレット、スマートフォン、AI/IoTハードウェア、およびワークステーションなどにより、保険・金融業界では従来のプロセスをデジタル化し、日常的な対面でのやり取りをスピードアップすることが可能となります。
パスワードや二重認証などの従来の認証方法は、今や簡単に突破されてしまいます。顔認証は保険・金融業界に最も適したセキュリティの形態であり、近い将来に業界全体へ普及することは間違いないでしょう。顔認証は、生体認証詐欺を防止するための最も安全で洗練された認証方法です。
昨今の感染症状況により、保険・金融業界ではリモートによるセキュアなソリューションの必要性が高まっています。将来の金融機関では、セキュリティ、不正防止、認証強化などのためeKYCテクノロジーの利用が進むと予想されています。モバイル端末での取引にeKYCを導入することで、保険、ローン、クレジットカードなどのサービスを合理化でき、金融機関は個人情報を保護しながらサービス範囲を拡大することができます。
精度の高い正確な認証によって、窓口での取引においてもセキュリティを強化することができます。より柔軟かつ安全な銀行業務の必要性が今後も高まり続ける中、金融機関では引き続き生体認証ソリューションの導入が進んでいくことでしょう。
顔認証の概要、その仕組み、および導入方法については、エッジデバイスによる顔認証をご覧ください.
2022年に顔認証がどのように使用されているかについては、「2022年における顔認証の展望」を参照してください。