顔認証に適した産業用PCの構築
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顔認証に適した産業用PCの構築

2021/02/24

この記事では、x86ベースの産業用PCを使用して、エッジベースの顔認証に最適な機器を構築する上で考慮すべき事項についてご案内します。

産業用PCとは

まず、産業用PCの定義ですが、これは産業分野における過酷な作業環境に耐えることのできる、頑丈で耐久性のあるコンピューターを意味します。産業用PCは防塵、防滴、耐高温、耐低温性能にすぐれており、24時間365日稼働できます。また、産業用PCは様々な業種や用途にあわせて拡張およびカスタマイズできるように設計されているため、新しい機能を容易に実装することができます。また、HDMI、D-Sub、USB、シリアルI/O、GPIOなどの豊富なインターフェースを備えています。

* Source: Advantech

産業用PCと顔認証

産業用PCは、様々な業界で顔認証用のプラットフォームとして使用されています。代表的なケースでは、1台または複数台のカメラ(Webカメラ、IPカメラ)と、顔認証ソフトウェアを実行する産業用PCとの組み合わせで顔認証システムが構成されています。今日最も普及している用途のいくつかをご紹介します。

工場・倉庫施設

顔認証は、製造産業における運用、セキュリティ、安全性といった幅広い分野でメリットをもたらします。例えば、従業員の出入口にカメラを配置することで、入退室管理を自動で行うことができます。また、許可されていない人物や不審者が施設への侵入を試みている、あるいはマスクの着用ルールに従っていない人物がいるなどの場合に、セキュリティ担当者へメッセージを送信することができます。顔認証は機器へのアクセス制御にも使用できます。取り扱いに厳格な管理が必要な機器において、許可された人物のみ機器の操作を可能としたり、運用ログを残したりすることができます。工場や倉庫の様々な箇所に顔認証を展開するにあたって、常時稼働し、膨大なデータログを管理できる産業用PCは最適な装置であるといえます。

デジタルサイネージ、セルフサービス端末

顔認証を実装したデジタルサイネージやセルフサービス端末は、多くの施設や店舗などで使用されています。例えば、デパートのデジタルサイネージでは、あらかじめ登録を行った顧客が顔認証を使用して、パーソナライズされたおすすめ情報を得ることができます。また、ファストフードやファストファッションの店舗ではセルフサービス端末が導入されていますが、顔認証により会員登録された顧客を識別することが可能となり、メンバープログラムの特典やポイントを自動的に付与できます。さらに、あらかじめ支払い方法が登録されている場合は、会計なども自動的に行うことができます。

小売店舗

小売店舗において、顔認証を備えた産業用PCは、レジを管理する従業員を認証するために役立っています。従業員はレジカウンターに入る際に、顔認証を使用してレジ端末にログインすることができます。

銀行・金融サービス

ATMをはじめとした金融サービス分野において、生体認証技術を使用したeKYC(electronic Know Your Customer)のような本人認証の導入が進んでいます。あらかじめ登録を行った顧客は、ATMに搭載したカメラで顔認証を行い、さらに暗証番号による二要素認証を行うことで、産業用PCが管理するデータベースとの照合で本人認証が行われ、安全かつスムーズに取引を開始することができます。

産業用PCによる顔認証の使用例については、顔認証 総合ガイド 2021も併せてご参照ください

顔認証用の産業用PCを構築する際に考慮すべき事項

産業用PCの主要な使用例をご紹介しましたので、次は顔認証用の産業用PCを構築する際に考慮すべき事項についてご案内します。産業用PCは幅広いカスタマイズに対応しているため、構築にあたっては要求されるパフォーマンス、コスト、消費電力などの様々な要素を考慮する必要があります。

パフォーマンス

顔認証用の産業用PCに必要なパフォーマンスを理解するには、まず特定の時間内にどれだけの顔を検出および識別し、顔認証プロセスを完了する必要があるかを把握する必要があります。少数の顔のみを検出および識別できればよい場合は、比較的パフォーマンスの低い産業用PCでも対応可能です。しかし、多数の顔の検出および識別が必要な場合は、高性能の産業用PCが必要となります。このような用途には、性能の高いNVIDIA GPUチップセットなどが適しています。

コスト

次に考慮すべき事項はコストです。パフォーマンスを向上させるには、NVIDIA GPUチップセットなどの高価なプロセッサーが必要となる可能性があります。一方でIntel Movidiusのような、よりリーズナブルでありながら優れたパフォーマンスを発揮するソリューションも存在します。

消費電力

一般的に、必要なパフォーマンスが高ければ高いほど、デバイスはより多くの電力を消費します。NVIDIA GPUはさまざまな場面で非常に優れた性能を発揮するチップセットですが、より多くの電力を消費するプロセッサーの一つでもあります。

フォームファクタ

他に考慮すべき事項として、形状とサイズがあります。産業用PCを配置する場所とサイズなどの要件を考慮して、フォームファクタを選択する必要があります。

拡張性

次に重要な考慮事項は拡張性です。単一用途のソリューションを将来多用途に拡張する必要性を想定している場合は、より拡張性に優れたソリューション、例えばより高性能な産業用PCや、モジュラー実装に対応したアーキテクチャが必要になります。

柔軟性

最後に考慮すべき事項は柔軟性です。産業用PCで顔認証以外のソフトウェアやアプリケーションを実行する必要がある場合は、より高度で柔軟性に優れたCPUが必要になります。Intel Coreシリーズは、強力で柔軟なソリューションの一つです。

顔認証用産業用PCで一般的に使用されるハードウェア構成

顔認証で使用される産業用PCで最も一般的な5つのハードウェア構成を、パフォーマンスが低いものから順にご紹介します。

  1. Intel Atom CPU x6000E

    パフォーマンス:低
    コスト:低~中

    価格的に最も手頃で、耐久性にも優れたハードウェア構成の一つです。Atom CPUは、Windows OS、およびx64ベースの豊富なソフトウェアアプリケーションやサブシステムと互換性があります。第11世代のAtom CPU (x6000E)には、OpenVINO DLBoostとVNNIが搭載されており、顔認証などで使用される深層学習アルゴリズムを十分なパフォーマンスで動作させることができ、顔認証タスクをすべてソフトウェアで処理する場合と比較して最大2倍の速度で実行できます。産業用PCで顔認証以外のアプリケーションを実行する必要がある場合は、より強力なパフォーマンスを発揮するCPUが必要となります。Atomは発熱が少なく、ファンレスで動作できるため、消費電力の削減とともに、ファンなどに起因する振動もなくすことができます。

  2. Intel Celeron CPU

    パフォーマンス:中
    コスト:中

    Intel Celeron CPUは、パフォーマンスとコストを両立させることができるソリューションです。Atomと同じく、ファンレスでの動作も可能です。パフォーマンスはAtomを上回っていますが、後述するCore i3には及びません。顔認証タスクにおいて、CeleronはAtomよりも同じ時間でより多くの顔を検出および識別できます。また、Atomでは難しかった顔認証以外のアプリケーションの同時実行も可能です。例えば、デジタルサイネージでは、広告を表示するためにコンテンツ管理アプリケーションとメディアプレイヤーが必要です。インタラクティブ端末のユーザーインターフェースでは、ビデオの再生や写真の表示、アニメーション効果などのためにかなりの処理能力が必要になる可能性があります。

  3. Intel Core i3 CPU

    パフォーマンス:中~高
    コスト:中~高

    Core i3 CPUは、CeleronやAtomよりもはるかに高いパフォーマンスを発揮します。一方でより多くの電力を消費し、発熱も多いため、システムがより高価となる可能性もあります。しかし、もし複数のアプリケーションをスムーズに実行できる産業用PCを必要している場合は、Core i3は信頼性の高いソリューションであり、価格に見合った価値を得ることができるでしょう。

  4. Intel Celeron + Movidius VPU アクセラレーター

    パフォーマンス:中~高
    コスト:中~高

    CeleronにMovidius VPUを追加することで、AIアルゴリズムを専用の処理ユニットで実行することができます。この組み合わせによって、比較的低い処理能力のCPUでも、顔認証を含む複数のアプリケーションをスムーズに実行することができます。このVPUはまた、消費電力が非常に少ないことでも知られています。Movidius VPUはIntel Celeronチップセットの追加コンポーネントですが、非常に小さい(8mm x 9mm)ため、サイズや形状の制限を受ける産業用PCにも搭載しやすくなっています。

    最先端のAIベースの顔認証アルゴリズムFaceMe® を、Intel Celeron J3355 CPUとIntel Movidius Myriad X VPUを組み合わせたシステム上でUH(Ultra-High Precision)モデルで実行するテストでは、CPUのみで処理する場合と比較して、最大で17倍もの速度で実行できることがわかっています。UHモデルは非常に高い処理能力を必要としますが、このテスト結果は、AIアルゴリズムがVPUで処理されるため、CPUへの負荷が大幅に軽減されることを示しています。

  5. Intel Core i シリーズ + NVIDIA Quadro RTX 4000/5000 GPU

    パフォーマンス:非常に高い
    コスト:非常に高い

    Intel Core i シリーズとNVIDIA Quadro GPUの組み合わせは、最高のパフォーマンスを発揮する産業用PCソリューションの一つです。GPUチップセットを使用することで、複数のビデオチャンネルでの顔認証と、複数のアプリケーションをすべて同時に実行することができます。私たちのテストでは、20以上のビデオチャンネルをサポートし、それぞれのチャンネルで1時間あたり500人の顔を識別できることがわかっています。このように非常に高い性能を発揮する一方で、より多くの電力を必要とし、導入コストも高価となります。しかし、より大規模な環境で顔認証を導入する必要がある場合は、コストパフォーマンスに優れたソリューションとなるでしょう。

    NVIDIA Quadro RTX 4000/5000シリーズをサポートする産業用PCとして、Core i やXeon CPUを搭載したAdvantech Air 300などの製品が市場に投入されています。

FaceMe® での顔認証パフォーマンス

FaceMe® は、市場で非常に高い評価を受けている、最も柔軟な顔認証ソリューションの一つです。上記でご紹介した構成を含め、最も多くのハードウェアをサポートしており、最高のパフォーマンスを実現するために最適化されたシステムアーキテクチャを備えています。次の表は、FaceMe® のAIモデルのうちVH(Very High)モデルを使用した際の、主要なハードウェア構成での顔認証パフォーマンスを示しています。FaceMe® のAIモデルの詳細については、顔認証 総合ガイド 2021のセクション3.4をご参照ください

ハードウェア名
HVモデルを使用した場合のパフォーマンス
Intel Atom CPU
720pの解像度で1画像あたり1つの顔がある場合、1秒間で約10枚の画像に対して顔認証を実行できます。
Intel Celeron CPU
F720pの解像度で1画像あたり1つの顔がある場合、1秒間で約24枚の画像に対して顔認証を実行できます。
Intel Core i3 CPU
1080pの高解像度で1画像あたり1つの顔がある場合、1秒間で約24枚の画像に対して顔認証を実行できます。
Intel Celeron and 1x Movidius VPU
1080pの高解像度で1画像あたり1つの顔がある場合、1秒間で約18~20枚の画像に対して顔認証を実行できます。
NVIDIA Quadro GPU
1080pの高解像度で1画像あたり1つの顔がある場合、1秒間で約270枚の画像に対して顔認証を実行できます。 さらに、 Quadro GPUは専用のビデオデコードエンジンを備えており、AI処理のパフォーマンスに影響を与えることなく、複数の1080pビデオストリームでの顔認証を実行できます。

顔認証用PCで使用されるオペレーティングシステム

顔認証用の産業用PCと互換性のある主要なオペレーティングシステム(OS)として、WindowsとLinux(Ubuntu)の2つがあります。どちらのOSが適切かを判断するためには、顔認証の用途とニーズを考慮することが重要です。FaceMe® は、最も幅広い用途に対応した顔認証エンジンの一つであり、WindowsとLinuxの両方に加えて、様々なCPU、VPU、GPUチップセットをサポートしています。WindowsとLinuxの主な違いは次の通りです。

  • Windows: 豊富な拡張性を備え、Linuxよりも多くの商用アプリケーションをサポートしています。マイクロソフトのエコシステムでは、新しいソフトウェアアプリケーションの開発を容易にする、多くのツールやGUIフレームワークが用意されています。

  • Linux: 安定性の面ではWindowsよりもはるかに優れており、必要な処理能力も比較的少なくて済みます。Linuxはオープンソースであるため、特定の用途に合わせてOSを構成し、不要な要素を削除したい開発者にとっては非常に使いやすいOSといえます。Linuxは、一般的にOS自体の追加費用が発生しないことも重要な利点の一つです。

最適な産業用PCの選択

顔認証用のシステムを構築する際にエンジニアや開発者が利用できる産業用PCは数多くありますが、選択に際して難しく考える必要はありません。どの構成を選択するかを評価する場合、まず顔認証の用途を理解することが非常に重要です。次に、パフォーマンス、フォームファクタ、拡張性、柔軟性、および予算などの要件について考えていきます。

用途に適した構成ができたら、アプリケーションを導入して実際に使用し始める前に、実証実験(POC)を実施することをおすすめします。実証実験によって、本稼働の前に改善する必要がある点を洗い出し、調整することができます。

顔認証の概要、その仕組み、および導入方法については、エッジデバイスによる顔認証をご覧ください.

2021年に顔認証がどのように使用されているかについては、「2021年における顔認証の展望」を参照してください。  

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