近年、顔認証技術は私たちの身近な場所で広く活用されるようになりました。しかし、その多くがクラウド等のサーバー型による顔認証を採用する場合があり、リアルタイム性の不足、プライバシーやセキュリティに関する懸念、サーバーダウンによる影響の拡大、通信コストの増大や通信インフラの整備 などの実運用面での課題が指摘されています。こうした問題を解決し、より迅速かつ安全な顔認証を実現するための有効な手段として注目されているのが、エッジAIによる処理です。
防犯セキュリティにおけるなりすましの検知、ネットワーク環境が限られた場所での本人確認、無人決済やスマートロックといった利便性を重視したサービスなど、エッジAIによる顔認証が求められる場面は多岐にわたります。本コラムでは、エッジ処理がなぜ必要なのかについて、その理由を詳しく解説していきます。
エッジAIを活用した顔認証には、従来のクラウド/サーバー型の処理と比較して、さまざまな利点があります。ここでは、その中でも特に重要な5つのメリットを紹介します。
エッジデバイス上で顔認証を完結させることで、クラウドへデータを送信する時間を削減し、ミリ秒単位の高速認証が可能になります。特に、通行量の多い入退場を個別に認証するケースや、防犯セキュリティや無人決済におけるなりすまし防止を伴う認証ケースなど、即時性が求められる場面での利便性が向上します。
顔データをクラウドに送信せずローカルで処理するため、データ漏洩や不正アクセスのリスクを大幅に低減できます。個人情報の保護が求められる環境では、エッジAIによる処理がより安全な選択肢となります。
クラウドサーバーへのデータ送信を最小限に抑えることで、インターネット通信コストを削減できます。特に、多数の顔認証端末を設置する監視システムや、防犯セキュリティなどで認証回数が非常に多いシステム、遠隔地での運用において、通信帯域の節約が大きなメリットになります。
ネットワーク接続が不安定な場所や、完全にオフラインの環境でも顔認証が可能です。例えば、工場、倉庫、建設現場、遠隔地の施設などでは、安定したインターネット接続が確保できないケースが多く、エッジAIが不可欠になります。
エッジデバイスごとに処理を分散させることで、サーバーの負荷を軽減し、システム全体のスケーラビリティが向上します。また、一部のデバイスが停止してもシステムを稼働させ続けることが容易で、不具合発生時に影響範囲を最小限に抑え、可用性・リカバリ性に優れたシステムを構築する事が可能となります。
このようにエッジAIによる顔認証は、即時性・セキュリティ・コスト削減・オフライン対応・スケーラビリティという点で、サーバー型処理よりも大きな利点があります。
エッジAIによる顔認証は多くのメリットを持つ一方で、いくつかの制約や留意点も存在します。
エッジデバイス上でAI処理を行うためには、デバイス毎に高性能なエッジAIプロセッサや専用チップ(GPU、NPUなど)が必要になります。これにより、初期導入コストや維持管理コストが従量課金のクラウドベースシステムよりも高くなる可能性があります。特に、多数のデバイスを設置する場合は、大きな投資が必要になります。
エッジデバイスはサーバー型と比較して、計算リソースやストレージが限られているため、高度なAIアルゴリズムや大規模なデータ処理には不向きです。たとえば、最新のディープラーニングモデルを適用するにはGPUが必需となるため、エッジデバイスに最適化された軽量のAIモデルの採用などが必要になります。
クラウドベースの顔認証システムであれば、ソフトウェアのアップデートを一括で行うことが可能ですが、エッジデバイスの場合はデバイスごとに更新を行う必要があります。特に、多数のデバイスを運用する場合、ソフトウェアの管理やメンテナンスの手間が増えるという課題があります。
クラウドサーバー型の場合、各端末の認証データをサーバー上のデータベースで統合することで、大量の顔データを一括管理でき、常に最新かつ一貫した顔認証を利用できます。しかし、エッジAIはローカル処理を行うため、デバイスごとの顔認証データベースが即座に同期されず、クロスデバイス間での認証において一貫性を欠く可能性があります。そのため、データベースの同期を適切に維持するための仕組みが求められます。
上記のようなメリットや制約などを踏まえると、エッジAIによる顔認証が不可欠となるシナリオは非常に多く存在します。ここでは、エッジAI顔認証が必要不可欠なシナリオや実際に導入が進んでいるケースをご紹介します。
イベント会場やテーマパークでは、入場者のスムーズな管理とセキュリティの強化が求められます。従来のチケットやQRコードによる認証では、偽造や転売、認証の手間、長蛇の列などの課題が発生するため、より高速かつ安全な認証手段が必要とされています。このようなケースにおいて、エッジAI顔認証は非常に効果的なソリューションとなります。
このようにエッジAIを活用する事によって、効率的で安全な運営が実現し、来場者の体験が向上します。
オフィスの入退場においては、不審者が侵入できないようになりすまし検知を含めた高いセキュリティレベルが求められます。またサーバー認証の場合、システム停止時にドア開錠不能となりうる状況が発生する為、システム全体が停止した場合でもローカルで認証と開錠が可能なエッジAI顔認証は非常に有効なソリューションとなります。
このように可用性が要求されるミッションクリティカルなケースにおいて、エッジAIでの顔認証はシステム停止のリスクを分散し信頼性の高いシステムを構築する事が可能となります。
工場内では作業管理や有資格者による利用制限などの安全管理が非常に重要で、エッジAI顔認証はこれらの課題を解決するために不可欠です。以下の理由で、特に工場の認証システムにおいてエッジAI顔認証が必需となります。
エッジAI顔認証は、工場の運営効率やセキュリティ強化を支え、作業環境をより安全かつ効率的に運用する事が可能となります。
上記ではエッジAI顔認証のメリットや導入シナリオについて解説してきましたが、エッジAIとクラウドなどサーバー型AIを組み合わせることで、それぞれの技術の長所を活かし、様々なシナリオで有用なハイブリット顔認証システムを構築することも可能となります。以下、ハイブリッド顔認証システムの有用性を解説します。
エッジで顔認証やなりすまし検知を行うことで、認証シナリオのローカル処理が可能となり、即時性の高い認証が実現します。これにより、リアルタイムでのアクセス制御や認証が必要な場面(前出のイベント会場や工場の作業現場)で高速認証が可能です。
エッジで顔認証を行い、サーバーで認証データを集約・管理することで、大規模なデータベース管理や複数のデバイス間のデータ共有が可能になります。これにより、ユーザーや従業員のデータを一元管理でき、スケーラブルで柔軟なシステムを構築できます。
エッジで顔認証を行い、サーバー側でバックアップやデータ解析を行うことにより、セキュリティが強化されます。万が一、エッジデバイスが故障した場合でも、サーバーにデータが保存されているため、冗長性が確保され、システムの信頼性が向上します。
エッジ側で顔認証を処理できるため、ネットワーク接続が不安定な場合でも機能します。サーバーとの同期が必要な場合は、後で自動的にデータが更新され、オフラインでも運用が可能です。
エッジデバイスでの初期認証や処理を行い、クラウドでのデータ保存や分析を最適化することで、通信コストやクラウドリソースの負担を軽減し、運用コストを抑えることができます。
このようにエッジ/サーバーのハイブリッドによる顔認証は、迅速な認証、スケーラビリティ、セキュリティ強化といった利点を提供します。これにより、様々な場面で高いパフォーマンスを維持しつつ、システムの柔軟性が高く、効率的なソリューションを構築する事が可能となります。
エッジAIによる顔認証は、高速処理と高いセキュリティを両立し、さまざまなシーンで必要とされる技術です。ローカルデバイスで認証を完結させるため、通信遅延がなく、リアルタイムでスムーズな認証が可能になります。また、クラウドを介さずに処理を行うことで、個人情報の漏えいリスクを低減し、プライバシー保護の強化にも貢献します。さらに、通信環境が不安定な場所でも安定して動作し、オフィスや工場、イベント会場、大規模施設などでの利用に適しています。防犯セキュリティの強化と利便性向上を両立するエッジAI顔認証は、今後ますます重要な役割を担うでしょう。
CyberLinkの提供するFaceMe®は、エッジからクラウドサーバーまで、マルチプラットフォームに対応した顔認証システムをハイブリッドに構築する事が可能です。特にエッジでのAI顔認証において、Linux/iOS/Android等幅広いエッジプラットフォーム上でNPU等を利用した高速な顔認証を提供する事により、様々なソリューション・サービスに顔認証機能を組込み、ご利用頂く事が可能となります。
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またFaceMe® Securityは、IPカメラと顔認証端末を統合した、入退出管理・ブラックリスト/ホワイトリストによる不審者検出・マルチカメラ対応でセキュリティ監視が可能な高性能な顔認証エンジンを搭載した顔認証パッケージ製品です。オンプレミスで小規模から大規模までシステム構築が可能となり、FaceTerminalを導入する事によって、エッジAI顔認証での入退館を実現する事も可能となります。このように様々な「認証シナリオ」「導入コスト」「セキュリティ」に対応可能なソリューションです。高速で信頼性が高く、正確で柔軟性と信頼性に優れた顔認証ソリューションを、ソリューションビルダーやシステムインテグレーターに提供しています。
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