購買行動の多様化、慢性的な人手不足など、さまざまな課題を抱えるリテール業界。こうした課題を解決するために、いま、リテールDXが急速に進んでいます。
DXとは「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」の略で、直訳すると「デジタルによる変容」という意味です。
中でも特に注目されているのが、顔認証システムを用いたリテールDXです。
リテール業界においてDXは何をもたらし、そして顔認証システムはどのように活用されているのでしょうか。
本稿では、リテール業界が現在抱える課題や、DXで実現できること、顔認証がリテールDXで活用されている理由などについて、解説します。
「デジタルによる変容」を意味する、DX(デジタルトランスフォーメーション)。
いろいろな説明のされ方をする言葉ですが、主にビジネスの世界では、データやデジタル技術を効果的に活用し、組織や業務内容などをより良く再構築・変化させていく意味で使われています。
一例として、経済産業省は「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。
DXは今、あらゆる業界で急速に導入がすすんでおり、リテール業界(小売業)も例外ではありません。
リテールDXとは、データやデジタル技術を活用し、仕入れから販売まで、小売りに関係するあらゆる業務・サービスにおいて、新しい仕組みを作ることを意味しています。
リテール業界でDXが求められる背景には、いったいどのような現状、課題があるのでしょうか。
現代は、「ものが売れない時代」と言われます。人々のライフスタイルや価値観が多様化し、例えばものを所有することに価値を感じない人や、将来に不安を感じて消費を控える人がいます。
さらに、少子化による市場の縮小、物価高による消費マインドの落ち込みなど、「良いものを作れば売れる」時代ではなくなっているといえるでしょう。 そのため、リテール業界では、より緻密な顧客分析、マーケティング戦略などが必要とされています。
リテール業界では、人手不足が深刻な課題となっています。
日本経済新聞の小売業調査(※1)によると、35.3%の企業が2021年度に必要な人員を充
足できなかったと回答し、人手を確保できない割合は2020年度の調査から12.9ポイント上昇しています。
少子高齢化による全体的な労働人口の減少に加えて、小売業は一般的に他業種に比べて比較的賃金が低く、土日に休みがとりづらいなどの傾向があります。これらも人手を確保しづらい一因となっている、と言われています。
1990年代に日本でも登場したECサイトはその後急速に普及し、今やネットで買えないものはないとまで言われるようになりました。また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、リアル店舗での対面販売は大きなダメージを受け、ECへの移行がさらに加速しました。
一方で、コロナ収束後、リアル店舗の需要は復活すると指摘する専門家も多くいます。
電通デジタルの「リテールDX調査(2021年版)」(※2)によると、コロナで来店頻度が減った
人のうち、コロナ後の来店頻度が「元に戻る」と回答した人は4割に上りました。理由としては「実物を見て購入したい」が最も多く、次いで「様々な商品を比較して購入したい」となっています。
消費者が商品を購入するきっかけから購入に至るまでのプロセス、購入後の行動まで、購買行動はより複雑になり、詳細な分析が必要とされています。
こうした現状、直面している課題を解決するひとつの手段として、リテール業界でもDX導入の必要性が強く認識されるようになっています。
参考1日本経済新聞『小売り35%「人手不足」 21年度、総売上高は2年ぶり増』(2022年7月26日)
参考2電通デジタル「リテールDX調査(2021年版・6業態)」(2021年12月2日)
多くの課題を抱えるリテール業界ですが、DXを導入することで、以下のようなプラスの効果が期待されています。
DX導入で、有効なデータを正確に収集できる環境が整います。
顧客の属性、購入や閲覧履歴、滞在時間、日時や時間ごとの商品の売れ行きなど、データの種類は多岐にわたります。
商品をレコメンドしたり、需要予測をたてて在庫管理をしたりすることが可能になり、そしてそれを分析することで、より効果的な販売戦略をたてることが可能になります。
ECサイトとリアル店舗、それぞれが連携することで、より効率的な商品訴求や販売促進を行うことができます。
例えば
こうした連携からさらにすすみ、オンラインとオフラインを「融合」する取り組みも進んでいます。
オンラインとオフラインを別のものと捉えてそれぞれの行き来をしやすくするだけではなく、そもそも同じひとつの店舗と考え、一体で顧客により良い消費体験を提供していくもので、「OMO(Online Merges with Offline)」と呼ばれています。
今やキャッシュレス決済は当たり前となりつつあり、多くの店舗で現金の受け渡しがなくなり、レジ業務が効率化されています。
加えて、スーパーマーケットやコンビニエンスストアのセルフレジ、アパレル店舗のICタグを使った金額の自動計算なども導入がすすんでいます。
これらによって、レジ業務に携わる人員コストを削減し、リテール業界の慢性的な人手不足の解消につなげることができます。
リテールDXは、業界の課題解決に大きな力を発揮することが期待されています。
そうした中で、リテールDXで活用され注目を集めているのが、顔認証システムです。
顔認証とは、データベースに登録された顔の情報と、カメラが検知した顔の画像や映像を照らし合わせて本人確認をするもので、身体の要素を用いて個人を認証する、生体認証システムのひとつです。
この顔認証技術を活用すると、面倒な本人情報の入力や認証の手間をかけることなく、顧客の本人確認を行うことができます。
例えば、顧客が自分の顔情報を店舗などで登録し、好きな商品を棚から取り、そのまま顔認証で決済まで完了する、未来型の店舗も一部でスタートしています。
ほかにも、オフィス内に設置された店舗で、買い物をする社員の顔情報を事前に登録し、購入した金額を給与から天引きする実証実験なども行われています。
顧客の本人確認をして決済するという活用方法のほかにも、顔認証で登録していない来客者のデータを収集し、マーケティング戦略に役立てることも可能です。
例えば、顔認証の技術を用いると、カメラに映った映像から、来店者の性別、年齢、入退店時間、売り場ごとの滞在時間などの情報を集めることが可能になります。
POSレジなどと異なり、仮に商品の購入に至らなくても、来店者の行動と属性情報をかけあわせた有効なデータを収集・分析し、より緻密な販売戦略をたてることができるのです。
このように、リテールDXと顔認証は相性が良く、多くのシーンで活用が期待されています。
業界が抱える課題を解決し、より緻密な販売戦略につなげることができるリテールDX。
中でも顔認証は、その利便性の高さから、リテールDXになくてはならない技術のひとつになっています。
顔認証を用いたリテールDXに、大きな期待が寄せられています。