近年、オンライン認証の方法が進化しており、その中でも注目されているのが「パスキー」です。パスキーは、従来のパスワードに代わる新しい認証手段で、スマートフォンで生体認証(指紋認証や顔認証)やPINを使うだけで簡単にログインでき、さらに公開鍵暗号方式を活用することで、不正アクセスやパスワード漏洩のリスクを減らすことが可能となるため、セキュリティと認証の利便性を大幅に向上させる事が可能となります。この記事では、パスキーの仕組みやメリットなどを詳しく解説します。
パスキー (Passkey)とは?
パスキーとは、従来のパスワードに代わる簡単で安全な認証方法です。ユーザーは、スマートフォンのアンロック等に利用中のオーセンティケーターによるデバイス認証(指紋や顔認証やPINなど)でサービスにログインする事が可能で、パスワードを覚える必要がありません。パスキーでは、公開鍵と秘密鍵のペアを生成して、秘密鍵はデバイス上、公開鍵をサーバー上に保存します。認証時にはデバイス認証を行い、デバイス上の秘密鍵とサーバー上の公開鍵で認証してサービス等にログインします。これによって、本来のデバイス所持者のみ認証が可能となるため、パスワードの入力が不要となり、なりすましや不正アクセスを防止する事が可能です。また、パスキーはユーザーアカウントに紐づいたパスワードマネージャーで管理でき、同じアカウントを使用していれば、異なるデバイスを使用しても利用が可能です。
パスキー (Passkey)の仕組み
1. 公開鍵暗号方式(非対称暗号)の基本
パスキーの根幹を成すのは、公開鍵暗号方式(非対称暗号)です。この方式では、認証に「鍵」のペア(公開鍵と秘密鍵)を使用し、それぞれの鍵には次の特徴があります:
- 公開鍵 : 誰でも見られる事が前提となる鍵で、サーバー上に登録される。
- 秘密鍵 : ユーザーのデバイス内に安全に保管され、ユーザーだけがアクセスできる。
特徴:
- 公開鍵で暗号化されたデータは、対応する秘密鍵でしか復号できません。逆に、秘密鍵で署名したデータは、対応する公開鍵で検証できます。
- 公開鍵は誰でも使えるため、暗号化されたデータは広く配布できますが、秘密鍵を持っている人だけがそのデータを解読できます。これにより、データのセキュリティが保たれます。
2. パスキーの生成
パスキーの生成は、ユーザーが新しいアカウントを作成したり、既存のアカウントで認証を設定する際に行われます。ここでは、デバイス(スマートフォンやPCなど)で公開鍵と秘密鍵のペアが作成されます。
3. ログイン時の認証フロー
パスキーを使ったログイン時の流れは次のようになります:
- サービスへのアクセス : ユーザーがウェブサイトやアプリにログインしようとすると、サービス(サーバー)はユーザーに対して認証を求めます。
- 公開鍵の使用 : サーバーは、ユーザーに対応する公開鍵を取得します。この公開鍵は、あらかじめサービスに登録されているものです。
- 署名の生成 : ユーザーのデバイスは、サーバーが送信するチャレンジ(ランダムなデータ)に基づいて、そのチャレンジデータに秘密鍵を使って署名します。この署名は、ユーザーが本物のデバイスの所有者であることを証明するためのものです。
- 署名の送信 : 署名されたデータは、ユーザーのデバイスからサーバーへ送信されます。
- 署名の検証 : サーバーは、受け取った署名が有効かどうか公開鍵を使って検証します。公開鍵と秘密鍵のペアの特性により、署名が正当であれば、そのチャレンジが実際にユーザーのデバイスから送られたことが確認できます。
- 認証の成功 : 署名が有効であれば、サーバーはユーザーを認証し、ログインが成功します。
パスキー (Passkey)とFIDOの関係ってなに?
パスキーとFIDOは、どちらもインターネット上での認証をより安全で便利にするための認証技術ですが、正確には少し異なる概念です。
パスキーは、FIDO2規格に基づく認証技術の一つで、公開鍵暗号方式を利用してパスワードレス認証を実現する方法です。
FIDOは、インターネット認証の標準化を推進する団体で、その技術にはFIDO2(パスワードレス認証を可能にする規格)が含まれます。FIDOはパスキーが機能するための基盤を提供します。
つまり、パスキーはFIDOの技術に基づいており、FIDOはパスキーという認証基盤を推進する標準規格団体であると考えることができます。
定義
パスワードを使わず、
公開鍵暗号を用いて認証を行う方式
オンライン認証の標準規格を提供する団体と技術基盤
目的
パスワードを使用せず、安全な認証を実現する
パスワードレス認証を可能にする技術規格とインフラの提供する標準規格団体
技術基盤
公開鍵暗号方式を使用し、秘密鍵をデバイスに保持
FIDO2(WebAuthn + CTAP)など、公開鍵暗号方式に基づいた標準
実装の範囲
主に認証情報(パスキー)とした、具体的な認証手段
複数の認証手段
(生体認証、セキュリティキー、パスキー)に対応した広範な技術基盤
主要企業・団体
Google、Apple、Microsoftなどが推進
FIDOアライアンス(Google、Microsoft、Yubicoなどが参加)
パスキー (Passkey)のメリットとは?
1.1. セキュリティの向上
パスキーは、公開鍵暗号方式(公開鍵と秘密鍵)を使用した認証方法であり、これによりセキュリティが大きく強化されます。具体的なメリットは以下の通りです。
- パスワード漏洩のリスクの排除 : パスワードは、フィッシング攻撃やデータベースの漏洩によって簡単に盗まれることがあります。パスキーでは、秘密鍵はユーザーのデバイスに保存され、サーバーには公開鍵のみが保存されるため、盗まれた場合でも、秘密鍵が漏れることはありません。
- フィッシング攻撃に強い : パスワードを使わないため、フィッシングサイトにだまされて認証情報を入力するリスクがなくなります。攻撃者がパスワードを盗んでも、認証に必要な情報はデバイス内にあり、外部に送信されることはありません。
- ブルートフォース攻撃への対策 : パスワードは推測されるリスクがありますが、パスキーの認証は秘密鍵を使った署名方式で行われるため、パスワードのように簡単に予測されることがありません。公開鍵暗号方式のため、攻撃者が秘密鍵を解読するのはほぼ不可能です。
- デバイス依存 : パスキーはユーザーが所持するデバイス(スマートフォン、PCなど)に保存されているため、第三者が不正にアクセスすることが難しく、物理的なセキュリティも強化されます。
1.2. 利便性の向上
パスキーはユーザーの利便性を大幅に向上させます。以下の点が挙げられます。
- パスワードを覚える必要がない : パスキーを使用することで、ユーザーは複雑なパスワードを覚える必要がなくなります。ログイン時には、デバイスの生体認証(指紋認証、顔認証など)やPINコードを使うだけで済むため、ユーザーの負担が減ります。
- シームレスな認証 : パスキーは多くのデバイスやアプリケーションに対応しており、ユーザーは一度パスキーを設定すれば、複数のサービスやデバイスに対してシームレスにログインできます。新しいデバイスを使用する際も、既存のデバイスからパスキーを簡単に同期させることができます。
1.3. ユーザー体験の改善
- 簡単なセットアップ : パスキーの設定は比較的簡単で、従来のパスワードの設定に比べてストレスが少なくなります。特にスマートフォンなどのデバイスで指紋認証や顔認証を用いることで、ユーザーは面倒なパスワード入力を避け、簡単に認証できます。
- 複数のデバイス間での同期 : パスキーは、複数のデバイス(スマートフォン、PC、タブレットなど)間で同期できるため、ユーザーはどのデバイスからでも同じ認証体験を得ることができます。これにより、異なる端末を使う際に生じる不便さが解消されます。
パスキー (Passkey)の運用にあたっての注意点
パスキー (Passkey) は、パスワードレスで安全な認証を実現する技術ですが、その運用においては慎重に取り扱うべき注意点があります。
デバイスのセキュリティ:
パスキーはデバイスに保存されるため、デバイスのロックや紛失時のリモート消去機能を活用し、セキュリティを強化することが重要です。
バックアップとリカバリープラン:
デバイスの故障や紛失に備え、パスキーのバックアップや復元方法を準備しておくことが必要です。
公開鍵の管理:
サーバー側で公開鍵を適切に管理し、通信はTLS暗号化で保護することでセキュリティを確保します。
ユーザー理解の構築:
まだ一般的にパスキーへの理解は進んでいないため、ユーザーに対して設定方法や同期方法、バックアップなどを明確に説明する必要があります。
継続的なセキュリティ監視:
定期的にセキュリティ監査を行い、最新の脅威に対応するための管理と監視を継続することが重要です。
まとめ
パスキーは、セキュリティと利便性を大幅に向上させる革新的な技術です。ユーザーはパスワードを使わず、デバイスの生体認証で簡単かつ安全にログインでき、企業やサービスにとっても、従来のパスワード管理によるリスクを削減するメリットがあります。今後ますます多くの企業がパスキーを採用することで、インターネットの認証環境がさらに安全で便利になることが期待されます。
さて、ここまでパスキーの仕組みや利便性について解説してきましたが、最後にFaceMe顔認証とパスキーの関連性について説明します。FaceMeはFIDO2で定義された生体認証デバイスとして認証を取得しており、パスキーにおいてオーセンティケーターが利用する生体認証デバイスとして機能することが可能です。つまり、システムにパスキーを導入する際、FaceMe顔認証をトリガーとしてパスキーの認証基盤を利用することができます。このように、パスキーとFaceMe顔認証を組み合わせることで、ユーザー利便性の高い顔認証によってシームレスに各種サービスに接続でき、パスワードを記憶する必要のない高セキュリティなユーザー体験を提供することが可能となります。
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